まだ夜も明けぬうちの出来事だった。
人影などない波打際、ただ波の音しか聞こえない波止場。
身をさすような冷たい風が吹き抜ける今宵
やけに強く。時折、唸るような轟音をなびかせて。
そして、暗闇を包む幕が上がる・・・
少し離れた魚市場では、早朝から恒例行事が執り行われている。
いつものように、活気に満ちた声が飛び交っていた。
各々(もしくは家庭)の生計を立てようと一年の半分以上
遠洋に出る漁師や船乗の数も多く、決して少ないわけではないのだ。
ふとした瞬間に、淡く儚い記憶が甦る・・・
どんなにそばに居ても、一緒になれない二人。
しかし、身体を幾度となく重ね合ったが故に一線を越えてしまった。
そこで二人は内緒で、親の中型船舶に乗り込んで
見果てぬ遥か彼方・・・安住の地を目指すことにする。
だが、その船はかなり年季が入っているばかりか
ろくに手入れのひとつ、油も効いてない有様
面舵の操作に慣れない若かりし青年は戸惑うばかりであった。
人影などない波打際、ただ波の音しか聞こえない波止場。
身をさすような冷たい風が吹き抜ける今宵
やけに強く。時折、唸るような轟音をなびかせて。
そして、暗闇を包む幕が上がる・・・
少し離れた魚市場では、早朝から恒例行事が執り行われている。
いつものように、活気に満ちた声が飛び交っていた。
各々(もしくは家庭)の生計を立てようと一年の半分以上
遠洋に出る漁師や船乗の数も多く、決して少ないわけではないのだ。
ふとした瞬間に、淡く儚い記憶が甦る・・・
どんなにそばに居ても、一緒になれない二人。
しかし、身体を幾度となく重ね合ったが故に一線を越えてしまった。
そこで二人は内緒で、親の中型船舶に乗り込んで
見果てぬ遥か彼方・・・安住の地を目指すことにする。
だが、その船はかなり年季が入っているばかりか
ろくに手入れのひとつ、油も効いてない有様
面舵の操作に慣れない若かりし青年は戸惑うばかりであった。
波が高くなってゆく沖合いに漕ぎ出された一艘の船・・・
むしろ、放り出されたといっても
過言ではないほどの過酷な状況で脆く果敢無く船は崩れていった。
青年の脇で、女は宙に無事を祈っている。
幼き子の生命を授かっている身として・・・
『その子が産まれ、そして、育ち、大きくなり
やがて迎え訪れる日々は、俺達の足跡を辿るのだろうか』
虚しく呟く青年の声が波と共に飲み込まれてゆく。
彼の隣に居た少女に届いたのかどうか定かではないが。
月日は流れて・・・
子供と一緒に戯れる女の容姿が今、そこにはある。
決して、あの瞬間を一秒として忘れずとも
子供の前では、辛い顔ひとつ見せない大人の女性になっていた。

※ このストーリーは、フィクションです。
むしろ、放り出されたといっても
過言ではないほどの過酷な状況で脆く果敢無く船は崩れていった。
青年の脇で、女は宙に無事を祈っている。
幼き子の生命を授かっている身として・・・
『その子が産まれ、そして、育ち、大きくなり
やがて迎え訪れる日々は、俺達の足跡を辿るのだろうか』
虚しく呟く青年の声が波と共に飲み込まれてゆく。
彼の隣に居た少女に届いたのかどうか定かではないが。
月日は流れて・・・
子供と一緒に戯れる女の容姿が今、そこにはある。
決して、あの瞬間を一秒として忘れずとも
子供の前では、辛い顔ひとつ見せない大人の女性になっていた。
※ このストーリーは、フィクションです。
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